国有林ゲート〜ふんどし〜麦平コース
     

高山の原生林を守る活動の原点とも言えるコース。国有林ゲートから吾妻高山登山口そして瀬峰を経て「ふんどし」と呼ばれる痩せ尾根を通過し麦平に至りさらに高山頂上に登るコースで、吾妻連峰の森林生態系を理解する上では不可欠なコースと言うことができるだろう。土湯の里山から麦平周辺の針葉樹林に至るまでの森林変化を見ることができる。「ふんどし」と呼ばれる地点を含む尾根筋は荒川渓谷北側に連なり、荒川尾根とも呼ばれている。

     
     

国道115号を土湯トンネルの方面まで登り、途中東鴉川トンネルを抜けてすぐに右折し、野地温泉方面に向かい、鬼面山麓あたりを走っていると、右手に稜線が見えてくる。狭い駐車スペースに車を駐めて、旧土湯街道(県道30号線)を歩き、眺望のきく場所で荒川渓谷対岸の稜線を眺めると、右手に栂森や台ケ森、左手に高山が見え、そして瀬峰から鷲倉山に至る上り稜線が長く連なっている。この稜線上には土湯から麦平を経て高山に登る登山道が通っている。この登山コースを知るきっかけとなったのは、平成12年の夏頃に高山の原生林を守る会が編集した『吾妻・安達太良・磐梯山森ガイド』のなかで「土湯温泉〜高山」の記事を読んでいて魅力を感じたことによる。記事を何度も読み返し、いつのまにかこの登山コースを「ふんどしコース」と呼ぶようになった。それは、通称「ふんどし」と呼ばれるやせ尾根を通過するコースで、鬼面山麓の旧土湯街道からだと、正面に「ふんどし」の稜線を眺めることになるからであった。

登山開始地点の国有林から麦平までの標高差約800m、上りコースタイム約3時間30分、下りコースタイム約3時間という健脚向きのロングランコースにはたまらない魅力を感じた。魅力はルートの長さだけでなく、標高差が高く、温帯落葉広葉樹林から亜高山帯針葉樹林にかけての森林相の垂直分布を観察できることにある。いつかはこの「ふんどしコース」を体感してみたいと強く願うようになった。

最初にこのコースにアタックしたのは、平成12年11月25日であった。国有林ゲートからふんどしを経由して麦平までのルートを往復した。同年は11月初旬に高山山頂と麦平間を往復しているので、日を違えて国有林ゲートから高山山頂までのルートを往復したことになった。さすがに歩きごたえを感じた。続いて、平成14年5月3日、平成15年5月5日、そして平成17年5月22日と国有林ゲートからふんどしに至るコースを往復した。5月にこのコースを歩くと、瀬峰からふんどしにかけてミズナラ林からブナ林の新緑を目にすることができ、新緑の登山道を歩く爽やかさは何ものにも代え難い。この季節、ふんどしからさらに登ってオオシラビソやクロベの針葉樹林帯を抜けて麦平に行こうとすると、針葉樹林帯の林床には残雪があり、登山道が残雪に覆われてコースを間違う可能性があるので要注意だ。

ふんどしコースを何度も歩くと、森林相の変化をじっくり観察できるので、大変勉強になる。国有林ゲートから1時間ばかり国有林道を登ると高山登山口に至り、そこから登山道を登ると、ふんどしコースと振子沢〜的場川方面コースとの分岐に至る。ここを起点に瀬峰〜ふんどし方面に登っても、振子沢〜的場川方面に歩いてもミズナラからブナへの森林遷移を観察することができる。胸高直径が太いミズナラの古木の林立が魅力的でもあるし、樹齢百年を超えるブナの古木もそれに混ざる。瀬峰〜ふんどしコースは、瀬峰までの急な登りを過ぎると、比較的緩やかな登り道となるが、瀬峰周辺にミズナラの古木が多く林立している。さらに登り続けるとブナ林が続くようになる。ふんどしからさらに登ると、ブナの樹高が低くなることに気付く。標高が高くなり、ブナもやや矮小化してくるのだ。このあたりに来ると、最初にコメツガが現れ、やがてオオシラビソやクロベの針葉樹林となる。

このコースは、積雪期には、高山から土湯に下りる山スキーのコースにもなっているらしい。事実、このコースを5月に登ったとき、登山道にゴーグルが落ちているのを見かけたことがある。山スキーを楽しんだ人の落とし物であろう。自分は冬山スキーはやらないが、高山の原生林を守る会のメンバーは高山スキー場計画が浮上した頃に積雪期にこのコースに入り高山山麓の樹木の調査を行ったと聞いている。僕も一度、真冬の積雪期観察会で国有林ゲート〜高山登山口〜振子沢は行ったことはある。素晴らしいブナ林の雪景色を堪能することができた。

往復6時間〜7時間という長距離のふんどしコースは、誰にでもお奨めというわけにはいかないが、一度のコースを体験すると、吾妻高山東側山麓における自然林の素晴らしさに感動し、これから先、永遠に保全しなければならないという気持ちになるであろう。このコースはまさに高山スキー場の計画がなされ、その撤回をもとめて自然保護活動を行った高山の原生林を守る会の原点とも言えるコースなのである。

高山スキー場建設計画が持ち上がってからの高山の原生林を守る会の活動については、
高山の原生林を守る会1988年「高山 吾妻連峰高山スキー場建設問題を考える」『東北の自然 第48号』東北の自然社に詳しい。

     
  
登山用地図に記されたふんどしコース。土湯温泉町から吾妻連峰高山まで登ることができる魅力的な登山路だ。
     
  出会いの写真抄  
 
国有林ゲートから登り始めて、国有林道から新緑の男沼を一望することができた。 瀬峰(1024m)に登る途中の林でタムシバの白い花が咲いていた。 瀬峰近くのミズナラ林を歩く登山道に沿ってカタクリの花が咲いていた。里山ではカタクリは花期が過ぎていたが、再びここで見ることができた。
瀬峰付近のミズナラ林。 タチツボスミレが満開。 ブナ林帯に入ると、若葉が展開し始めていた。
「ふんどし」に到着。一息入れて、荒川渓谷を挟んで聳える安達太良連峰箕輪山そして鬼面山を眺めた。 枯れた太い樹幹にキツツキがあけた穴。アカゲラがいるのだろうか。 バイカオウレンの花が咲いていた。
 
樹齢百年もののブナ古木。 爽やかなブナの新緑。 カモシカとの出会いも楽しい。
     
片道3時間半以上かかるこのコースは魅力たっぷりだ。何度登っても新たな出会いがある。それぞれのトレッキング記録を以下のcontentsに掲載した。ご覧いただき、ぜひご自分の足で歩いて、その素晴らしさを体感していただきたい。  
 
  contents  
  2000年11月25日(準備中)   
  2002年5月3日(公開中)  
  2003年5月5日(準備中)  
  2005年5月22日(準備中)