平成24年4月13日
高山の原生林を守る会 鹿狼山のスプリングエフェメラルとスミレ観察会 
 
 高山の原生林を守る会 第121回観察会
平成24年4月8日(日)開催
 

新地町に聳える名峰鹿狼山の自然林は、植物や野鳥など自然の宝庫と聞いており、高山の原生林を守る会で鹿狼山観察会の計画が持ち上がった時から楽しみにしていた。本当は昨年の4月に観察会を開催する予定であったが、あの3.11東日本大震災によって開催が延期となった。これは当然のことで、新地町の海岸では未曾有の巨大津波により100人以上の方々が犠牲になられたのである。鹿狼山観察会を担当する予定だった新地町在住の会員Oさんも、教え子や親しい方の家族、ご子息の友人を津波で亡くされ、大変悲しい思いをなされた。Oさんの心中をお察しすると、とてもではないけれど昨年は鹿狼山の観察会という気持ちには到底なれなかったことだろう。

あれから一年が過ぎ、ようやく普段の生活に戻れるようになった今年、昨年延期した鹿狼山観察会を開催することになった。それはそれで僕も楽しみにしていたのだが、やはり、鹿狼山から海岸を眺めることがとっても躊躇された。昨年の震災後、父親の実家も壊滅的な津波被害を受けたため、故郷楢葉町の海岸だけはこの目で津波被害を確認しておかなければならないと思い、親戚が住むいわき市の海岸とともに足を運んだが、南相馬市から新地町の海岸には足を向ける気持ちになれなかった。南相馬市・相馬市・新地町合わせて1,100名以上の方々が津波の犠牲になられており、その被災海岸に目を向ける気持ちになれなかった。用も無いのに津波被災地に行って興味本位で写真を撮る人もいるやに聞いていたが、多くの悲しみを誘った海岸の被災現場にカメラを向けることなど僕には絶対にできない。

浜通りには「海が見える○○○」などと、太平洋の眺望をうたい文句にしているホテルや民宿、温泉などがあちこちにあるが、震災後は「海が見える」ことが心の痛みにつながる人も数多くおられるようになり、海岸沿いの宿泊施設や温泉、リゾート施設などはダメージを受けたことと思う。

今回も鹿狼山の頂上から太平洋を眺めることにとっても心苦しさを感じていたが、「これも福島県浜通りの災害史という歴史的事実の姿」と自分の心に言い聞かせ、何とか正視することができた。自然観察会とは言え津波で千人以上の方が亡くなられた海岸が見える山を歩くには気持ちの中で何か納得できるものが欲しかった。

鹿狼山の頂上に立った時、観察会を担当されたOさんが「海に向かって手を合わせてください」とおっしゃられ、手を合わせながら追悼と鎮魂への祈りを捧げたことによって気持ちが少しは軽くなった感じがした。

今回の観察会には20名の方が参加された。遠くは岩手県から「カタクリの会」の代表ご夫妻が参加され、地元からも担当のOさんをはじめ、南相馬市のTDSさん、クリさん、Yさんが参加され、鹿狼山の自然について、随所で話が盛り上がった。

鹿狼山は中間温帯林、すなわちモミ−イヌブナ林帯に属し、かなり植生が豊かだ。季節的にはスプリングエフェメラルの花咲く時期。様々なスミレやカタクリ、キクザキイチゲやアズマイチゲの花々が咲き誇るシーンを思い描いていたが、今年の春はいつまでも寒く、実際に歩いてみたら咲き始めというところであった。

福島市での観察会参加メンバーの集合場所は、小鳥の森第一駐車場に午前7時ということであったが、皆さんが集合した頃は小雪が舞い、とても寒かった。僕も服装について迷ったが、ヒートテックタイツを履き防寒ジャンバーを持参した。いつもの年なら4月にもなるとヒートテックタイツを履いていると熱くなって汗ばむので着用しないのだが、今年はいつもの年とはちがい、何時までも雪が舞って寒い春。それでも霊山を越えて相馬市の市街地に入る頃から暖かくなって来た。相馬市の土手にはアズマイチゲが群れ咲いている。紅梅が咲き誇っている。やはり浜通りは暖かい。

鹿狼山の登山口に全員集合してミーティングの後、期待に胸を膨らませながら出発した。シロダモやフサザクラなど、浜通り特有の植生に注目。自然林は素晴らしかった。太いイヌブナやイヌシデとも出会えた。頂上で黙祷を捧げたのち昼食。記念写真を撮ってから下山。下山時にも素晴らしい発見が。さすが地元の植物に詳しいクリさん。クモノスシダやタマゴケを見つけられ、皆さんほとんど初めて見る植物だったので熱心に観察した。下山コースではカタクリも花を開き始め、シュンランとも出会うことができた。

全行程5時間以上という熱の入った観察会。素晴らしい鹿狼山の想い出を胸に帰路につくことができた。

 
 
 
今回の観察会でもたくさんの写真を撮った。持参したのは愛機ニコンD300。レンズはスプリングエフェメラルの花々を接写できるように、マクロズームを装着した。ニコンD300は1200万画素だが、それではあまりに重いので、半分の600万画素にして撮影。ピクチャーコントロールでシャープさを強めにセット。山野の花を撮る時は、いつもこの仕様で撮影している。

高山の原生林を守る会の自然観察会に参加してもう11年。観察会での写真撮影では、参加されている会員の方々の様子もできるだけ撮るように心がけている。それが会の歴史にもなるからだ。毎回会員の表情を撮影していると、自然観察に臨んで皆さん溌剌とした喜びの表情の多いことに気づかされる。自然との触れ合い、そして自然を知る楽しさを心から満喫されている様子である。観察会には多くの女性の方々も参加されているが、皆さんとても若々しい。高山の原生林を守る会の観察会だけでなく、会員同士で自主的に山登りをされたり自然観察をされている。自然と触れ合う機会を意識して多く作っていることが若々しさを保つ秘訣なのだろう。

今回の観察会が高山の原生林を守る会の第121回観察会。これだけ観察会の回数を重ねれば、会員の方々の自然に対する知識も豊かになってくる。植物の細部的な特徴をルーペで観察するあたりはさすがと思う。カメラのレンズを通して会員の表情を観察していると、自然観察会として定着するまでの会の歴史をうかがい知ることができるようだと思った。
 
観察会のアルバム 
 
   
朝9時前には鹿狼山登山口の駐車場に集合。久しぶりの出会いに旧交をあたためるシーンも。ミーティングの後、各自準備体操をして身体をほぐし、いよいよ出発。 福島から来たメンバーは、「浜通りは温かいな〜」と感激。スプリングエフェメラルへの期待がいやが上にも高まる。
   
鹿狼山腎社の鳥居をくぐって、鹿狼山登山が始まった。 さすが浜通りの新地町。アオイスミレが咲いていた。参加したメンバーにとっては、今年初めて目にするスミレの花。アオイスミレの名の由来は、葉が葵の葉に似ているから。葵の御紋の葉だ。
   
清水がしたたり落ちる滝。山葵の葉が随所に繁っていた。 シロダモの木。シロダモはクスノキ科の常緑樹。浜通りならではの植生。
   
出発して間もなくの所から、熱心な植物観察が始まった。  ここがニリンソウの群落地。鹿狼山では唯一のニリンソウ群落地とのこと。まだ葉のみで、花茎は伸びていなかった。 
   
今回の鹿狼山観察会を担当された新地町の山ガールOさんが、熱心に観察ポイントを案内された。  ふくしま緑の百景の碑。 
   
話題になったネコノメソウ属。ヨゴレネコノメか?ニッコウネコノメか?  ミヤマカンスゲの花が咲いていた。この花を見ると春の到来を実感できる。 
   
観察会資料を見ながら、現地の自然を確認する。観察会資料を作成された山ガールOさんのご苦労は並大抵なものではなかったと思う。素晴らしい資料。  エンレイソウの花が咲いていた。 
   
イラガの繭の脱け殻。イラガに刺されるとひどい皮膚炎となるが、繭の模様は美しい。  土手に注目すべき植生を見つけて、熱心に観察。 
   
フサザクラの花が咲き始めていた。浜通りで見る事が出来る花。中通りでは目にすることがない。僕は楢葉町で何度も見ていて、懐かしく感じた。 熱心に地面を観察していると思ったら、ミヤマキケマンの葉が伸びていた。花はまだ咲いてはいない。 
   
蔓性の植物を手に取って熱心に議論を重ねながらの観察。 湿地に繁茂していたネコノメソウの花も開花間近。 
   
アズマイチゲの群落。花は閉じたまま。温かくなると開くのだろうか。  ここのエンレイソウは葉が小さめな感じがした。 
   
青空を背景に風にゆれるクマシデの果穂。  登山道をゆっくりと観察しながら歩く。 
   
これがトリカブトの若葉。ニリンソウの葉とよく似ており、要注意。 マルバダケブキの若葉は瑞々しい。
   
杉木立の木漏れ日。 ケヤキの古木に絡みつくテイカカズラ。 
   
登山道の中腹で一息つきながらあちこち観察。  ホソバトウゲシバ。シダの仲間。 
   
鹿狼山中腹斜面の自然林。  このような自然林の木立を眺めながら、ゆっくりと登る。 
   
鹿狼山登山道。道としてはしっかり整備されている。毎年の正月には元朝参りの参道ともなるのだ。  カタクリの群生地も、今年はようやく葉が出てきたばかり。
   
登山道の観察ポイントに集まって、熱心に説明を聞いている。  左手がヒノキ植林で右手が自然林の尾根道。 
   
ここもカタクリの群落。  満開のカタクリを夢見ていたが、今年の春の寒さでは、それもかなわなかった。 
   
見事なイヌシデと出会えた。 古木の風格。
   
皆さんイヌシデに集まった。  鹿狼山では一番大きなイヌシデとのこと。 
   
登山道にも明るい日射しが。 モミの木立を見つけた。 
   
コナラの古木と出会えた。 手前がアカシデの古木。 
   
見事なクヌギの古木にも出会うことができた。直接手を触れてその素晴らしさを体感した。  標高が上がるにつれて、自然林の中にミズナラも見ることが出来るようになった。 
   
ハリギリの古木の樹肌。 コナラも太い古木が尾根の登山道沿いに並ぶようになった。 
   
ウバユリが若葉を展開しはじめた。 息もはずむ頃、林相が次第に美しくなってきた。 
   
スゲの花が咲いていた。何というスゲだろうか?  背の低さから、アズマスゲの可能性が考えられる。 
   
次第に青空が広がり、林床も明るくなってきた。 鹿狼山の自然林が、こんなに美しいとは初めて知った。
   
明るい林床、落葉広葉樹の素晴らしさ、理想的な森だ。 いつまでもここにたたずんで、その幸福感を味わいたくなった。 
   
時折目にするモミの緑。  あくなき探求心で林縁の植生を熱心に観察。 
   
林床には笹も茂らず、落ち葉の絨毯。  新たな発見をしながら、いつもの倍の時間をかけてコースを歩いた。
   
茶色い落ち葉の絨毯に落葉広葉樹の樹肌がよく似合う。  日が差し込むと、とにかく明るい。 
   
木々の間から、ふもとの新地町が見えた。  こういった道をどこまでも歩く。 
   
やがて太いイヌブナと出会う。  Oさんのお話しでは、このイヌブナが鹿狼山では一番太いイヌブナとのこと。
   
イヌブナ独特の樹肌。 青空に映えるイヌブナ樹冠の枝ぶり。
   
会員の方が見つけた、ムササビの糞。鹿狼山にムササビが棲息している証拠。  笑顔で楽しく観察を続けているので、疲れは感じない。 
   
春の日射しの尾根道。  キブシの花も咲き始めた。 
   
鹿狼山の頂上も近くに見えてきた。  このカーブを曲がって、尾根道を登り、杉林を過ぎれば、間もなく頂上だ。 
   
ヤドリギを見ることができた。  根元に穴が空いたコナラの古木。ムササビが住んでいたのだろうか。 
   
稜線に並ぶコナラの古木群。 さあ、もう少しだ。頑張ろう!!! 
   
杉林を過ぎて、頂上近くの登り。 少し急だが、もう少し。息が弾む。 
   
頂上近くの稜線西側は、このような自然林。  落ち葉を踏みしめながら、最後の登り。意外と落ち葉が滑り、足を取られる。 
   
ご苦労様!!! 間もなく頂上。 頂上から眺めた新地町の海岸。東日本大震災の巨大津波で何もかもが流されてしまった。 
   
頂上の地図で、位置関係を確かめている山ガールさんたち。  どこかの県知事が建てた鹿狼山登頂記念碑。こんな碑を建てて恥ずかしいとは思わなかったのであろうか。 
   
鹿狼山神社の鳥居。  頂上のベンチで昼食となった。 
   
 日当たりの良い神社の石垣を背に昼食するキュートな山ガールさんたち。 見晴らしの良いベンチでの昼食は格別。 
   
皆さんそれぞれに手料理を持ち寄った。  鹿狼山の頂上はこんな風景。北側は高い杉木立となる。
   
鹿狼山神社の拝殿。  頂上で皆さん記念写真。素敵な笑顔!!! 
   
いよいよ下山の時間となった。  見晴らしが利く場所から、新地町を眺めた。悲惨な津波の跡が目に痛い。 
   
下山コースにもアオイスミレが咲いていた。 下山しながらも、ゆっくりと植物観察。 
   
アオイスミレの花が、ことのほか美しく感じた。  カタクリの芽が地中から伸びてきた。 
   
ツノハシバミの雌花が可愛らしく咲いていた。 下山コースは意外と傾斜が急な坂道だった。 
   
日当たりの良い斜面では、カタクリの花が開いていた。  開いて間もないカタクリの花。
   
何という種類の蝶だろう?調べたら、ヒオドシチョウだった。 タチツボスミレも咲いていた。 
   
やっとシュンランに出会えた。これまでの寒さから、この日ば出会えないだろうとあきらめていたが、ラッキーだった。  ニホンタンポポも咲き始めていた。
   
鹿狼山の北側も、素晴らしい自然林。 キツネノカミソリの群落と出会えた。花期は8月、葉だけを見るとスイセンと見間違いそうだ。 
   
タマゴケをクリさんに教えていただいた。  アズマスゲの花。 
   
クモノスシダ。クリさんが教えてくれた。僕にとっては平成21年の7月に、やはりクリさんに真野川上流の立石で教えていただいて以来。  クモノスシダもなかなかお目にかかれない貴重種。 
   
鹿狼山の植生に新たな魅力が加わった。  クモノスシダの葉裏のソーラス。 
   
下山路も、最後まで熱心に自然観察を繰り返した。  登山口に戻ったら、今朝は開花していなかったカタクリも開花していた。 
 
 
 
昨年の震災を乗り越えて復旧・復興への歩みを始めた新地町。原発事故災害の影響が少ない分、津波被災地のがれき撤去なども進んでいるようだ。鹿狼山を登っても多くの登山者の方とすれ違うことができた。そのことに何となく救われる思いがした。課題は多々あるとは思うが、観察会参加者の一人として、新地町や相馬市、南相馬市の復旧と復興を心から祈りたい。

今回の観察会には、高山の原生林を守る会代表のSさん曰く「うちの会の自然観察会の師匠」である「カタクリの会」代表のSさんご夫妻が参加されたことが何より嬉しい。久しぶりにお会いできた。僕は一度も岩手県の「カタクリの会」観察会に参加したことがないが、いつかは必ず参加したいと思った。
 
 関連サイト
 
 カタクリの会 http://www.todoland.co.jp/waga/katakuri-kai.html
 
高山の原生林を守る会 http://www15.plala.or.jp/adumatakayama/index.htm